桜縁
「そこは嘘でも、僕の傍がいいからって、言って欲しかったな~。」
「何を言ってるんですか。でも、明日は頑張らないと……。」
「うん、そうだね。だけど、僕は強いから誰が相手してくれるのかな?」
ちらりと月の方を見る沖田。それは気づかなかったことにして、月は夜空を見上げていた。
翌朝早くから、道場は荒れ模様であった。
沖田はことごとく、会津の兵士達を打ち負かしていく。
もはや、この京には彼に敵うものはいないのではないか、と思うほど圧倒的な力の差を見せつけていた。
そんな沖田を見に、他の侍女達も集まって来ていた。沖田が勝つたびに、歓声が上がる。
月はその傍らで、怪我人の手当てをしていた。
「さすが沖田様ですわ!素晴らしい剣の腕だこと。」
蛍も侍女達と一緒になって楽しんでいる。
「姫様は羨ましいですわ~、あんな強いお方が、夫になる方なんて。」
「本当、羨ましいことですわ。」
だが、沖田はそんな事には興味がないのか、蛍達の方には振り替えずにいた。
「そこの君。」
「?」
沖田に呼ばれ振り返ると、竹刀を肩に担いだ沖田が立っていた。
「周りの人達に代わって、僕と勝負しない?」
「え……?」
突然の事で驚いていると、横から蛍がやって来る。
「月、出てみなさい。」
「いえ、私は遠慮します。」
即座に拒否をする。沖田とやり合ったら、勝負の相手すらならないことは、目に見えるように分かっていた。
「あら、どうして?」
「首を寝違えたみたいで、今日は痛いんです。」
「あら~、それは残念ね。なら、私がお相手をしてもいいかしら?」
月の変わりに蛍が参加を申し出ると、歓声がそっちの方へと向き、沖田は蛍と対戦することとなった。
その間ずっと蛍は、怪我人の手当てなどに追われていた。
勝負はすぐについた。もちろん勝者は沖田であった。
竹刀を弾かれ、蛍は尻餅をついていた。
「さすが沖田様。私なんかでは到底敵いませんわ。」
沖田は蛍に手を差し出し立たせる。
「長州でもきっと負け知らずでしょうね。」
そこへ、藩主の侍女がやって来る。
「お嬢様、藩主様がお呼びです。そろそろ切り上げて下さい。」
「分かったわ。他の者達も、引き上げなさい。」
蛍から指示が出され、侍女や兵士達がぞろぞろと引き上げて行く。