桜縁
「では沖田様、私はこれで。」
お辞儀をすると蛍は道場を後にした。
道場には沖田と月だけが残される。
月は竹刀を取り、素振りの稽古をし始める。
「あれ、月ちゃん首は?」
「治りました。」
「なら、相手してくれる?ちゃんと手加減してあげるからさ。」
「遠慮します!また、痛くなる予定なので。」
「なにそれ?面白い首だね。」
クスクスと笑う沖田。悔しいが、今の実力では到底沖田には勝てない。だが、情けをかけてもらうのも、返って苛立つので、笑う沖田を無視し、竹刀を振るった。
一方で、新撰組では月がいなくなったことで、桂達が長州へ引き上げ、晴れて京の治安を守るために力を入れて邁進していた。
しかし、分裂していた芹沢達への溝は、埋まるどころか、日々悪化の一途を辿っていた。
いくら近藤達が頑張っても、芹沢達のおかげで新撰組の評判は悪くなる一方で、その報告は会津の容保の耳にまで届いていた。
「決行の時が来たようだな。」
あれから、近藤達と話し合ったが、やはり仲間殺しということだけあって、躊躇いがあったのか、近藤の頼みで見送られていた。
しかし、新撰組の評判は悪くなる一方で、このままでは会津藩まで、巻き込まれかねない。
それに新撰組とて、これ以上芹沢の悪行を見過ごすわけにもいかなかった。
そして、沖田と蛍との婚姻……。
差し迫る状況の中、これ以上待ったはきかなかった。
「すぐに沖田と近藤に命令を下せ。事は急ぐ、急げ!」
「はっ!」
前々から準備されていた計画に、火蓋が切られた。
部下達はそれぞれに動き出す。
一方、そんな中月は複雑な立場に立たされていた。
蛍と沖田と親しい侍女。特に沖田。
として他の侍女達から睨まれるようになっていたのだ。
元々侍女というのは、それなりの身分の者しか仕えることが出来ないらしく、月みたいな身分の者がなれるものではなかったから、余計にその風あたりが激しかった。
バシャンと水しぶきが上がる。
運悪く侍女達に取り囲まれ、月は桶の水を頭からおもいっきりかけられていた。
髪から雫が滴り落ちる。
「身売りの女のくせに生意気なのよ!」
「本当本当…、汚らわしい女だこと。」
「そんな汚い手で、触らないでちょうだい!汚らわしい…!」