桜縁
沖田が見ていない場所を狙って、罵声を浴びせ、馬鹿にしてくる侍女達。
大方、実らぬ恋への嫉妬と言ったところだろうか。
もう慣れたものである。
「……用がないのでしたら、これで。」
取り合うつもりもなかったので、濡れた前髪を掻き上げながら、先へ行こうとした。
「なっ…!」
それが堪に触ったのか、ぐいっと着物を引っ張られ、地面に押し付けられる。
「うっ…!」
「女のくせに生意気にも、刀なんて握っちゃって!野良猫の分際でムカつくのよ!」
「!」
ベシャと顔に何が当たる。それは、水でドロドロにされた泥団子であった。
他の侍女達の手にも、泥団子が握られていた。
「今からたっぷりと、その身体にしつけをしてやる!覚悟をし!」
侍女達は一勢に容赦なく、月に泥団子をぶつけていく。
なんとも子供じみたやり方だ。
彼女達にしてみれば、容姿に傷をつけ、笑い者にし、沖田や蛍から見捨てられることを、目的としていたのだろう。
こういう時は、目をつむり黙っているしかない。月はしばらくの間、泥を浴び続けた。
「こんな状況になっても、声一つ上げないなんて、本当ムカつく女ね!」
抵抗も何も反応を示さない月を見て、泥を投げるのが飽きたのか、侍女達はその手を止めた。
「どうしたら、その生意気な顔から、悲鳴が聞けるのかしら?」
侍女の一人が月の前髪をわしづかみにし、顔を上げさせる。
「!」
「その可愛らしいお顔に、傷でもつけたら、聞けるのかしら?」
小刀を取りだし、ゆっくりと顔に近づけて来る。
月は意を決し、近くにあった木をおもいっきり蹴った。
すると、木にいたらしい虫達が彼女達の上に降り注いだ。
「きゃあっっーーーー!!」
「いやっーーーー!!」
月の代わりに彼女達が悲鳴を上げるはめになり、侍女達は逃げるように大慌てで、走り去って行った。
月は立ち上がると、着物を着替えるために、部屋へと戻った。
着物を着替えると、沖田の部屋へと向かった。
いつもと違う着物を見て、目を白黒とさせる沖田。
「な、なんですか?」
「いや、別に。いつもと雰囲気が違うなって……。何かあったの?」
不思議そうに尋ねてくる沖田の視線から逃れるように、散らばっていた書物を片付ける。
「いえ、なにも。」
「ふーん。」