† Lの呪縛 †
「シド! お前という奴はフラフラと直ぐに居なくなりおって! 長男だという事を忘れるな」



エドガーの声は届いている筈なのに、シドは反応を示さなかった。


オリヴィアを見つめたまま、フワッと優しく微笑んだ。


周りの者たちは目を疑った。


いつも氷の様に冷たい表情のシドが笑みを漏らすなど、誰も想像だにしなかっただろう。


本来のシドを知らないオリヴィアだけが、驚く事をしなかった。


シドは腰を屈め、上品にオリヴィアに手を差し伸べた。



「私はシド・ルーズヴェルトと申します。 宜しければ、私と踊って頂けませんか?」



この誘いのせいで、オリヴィアは女性たちの嫉妬を、一気に買う事になる。


今までシドが誰かをダンスに誘った事など一度もない。


戸惑うオリヴィアの肩に、クレアの手が触れた。



「せっかくだから、踊って頂いたら?」

「でも、お母様……」

「オリヴィアはまだダンスのお勉強中なの。 優しくリードしてあげてちょうだい」

「勿論です」



シドはクレアの言葉に笑みを深めた。


オリヴィアは恐る恐るシドの手に自分の手を重ねた。


シドのエスコートの元、二人はダンスホールの中心へと足を進めた。





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