† Lの呪縛 †
苦手だったヴァイオリンのレッスンも、ここ最近は楽しい時間になっていた。


少しは心にゆとりができたのかもしれない。



「では最後に一曲弾いて、本日のレッスンを終わりに致しましょう」

「はい」



皺の寄った顔で漏らす講師の声は、程よく低く落ち着いていて、まさに老父だと言わんばかりのその声は、オリヴィアの心を少なからず落ち着かせる。


か弱い力ながらも滑らかな手つきで弦を押さえ、軽快に弓を動かしていく。


当初は聴けたものではなかったが、今では心地良い音を奏で、メロディーとして聴かせられる程に成長した。


以前の生活からは想像も出来ない程贅沢な暮らし。


こんな暮らしを実母シャロンとできていたら、どれだけ幸せだっただろうと思わずにはいられなかった。


ー今の私の姿を見たら、お母さんもキースも驚くだろうな。 でも、この姿を見せる事はもう出来ない。 一緒にいてくれるだけで幸せだったのに……。ー


オリヴィアの表情が曇り、心なしかヴァイオリンの音が悲しく聴こえる。


静かにドアが開き、クレアが部屋に入ってきた。


オリヴィアが一曲弾き終え、ヴァイオリンを下ろすと、クレアがすかさず手を叩いた。



「お母様」

「とっても上手だったわ」

「ありがとう」

「アダムス先生、いつも有難うございます。 次の予定がありますので、私たちはお先に失礼致しますわ」

「とんでもありません。 また宜しくお願い致します」



ヴァイオリン講師のアダムスが頭を下げる中、クレアはオリヴィアの手を取り早々に部屋を後にした。





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