紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
家にあった本で見たような、牛の頭に人間の体、みたいなベタな悪魔じゃなかった。
それは黒い霧のように空中を漂っていて、実体がない。
『オーランド、この悪魔と契約するんや。
代償を払って、お前は力を手に入れるんや』
『代償って、どうするん!
僕は死んでしまうんか?
そんなん嫌や!』
『死なへん!
ちょっと……片腕がなくなったり、目がつぶれたりするかもしれんけど』
それ、ちょっとじゃない。最悪。
『アホかぁぁ!!
嫌や、絶対嫌や!!
自分、ホンマに僕の親か!?』
『当たり前や!!
いいから黙らんか、ボケェ!!』
父は渋い顔で、また呪文を唱えはじめた。
ああ、ひどい。
僕はやっぱり、いらん子なんや……
涙はいつの間にか、オーランドの顔を濡らしていた。