紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
キミは、自分の血を憎んでいるんだ。
だからなかなか、本当のことを言ってくれなかったんだろう。
スコットランドから逃げた王族は各地に散り散りになり、もうほとんど残っていないと聞く。
コートニーは先祖のことは胸の内にしまい、もう争いなど望んでいなかったはず。
なのに、王族の血のせいで、今も白魔法師への復讐を企てる黒魔法師たちに、利用されようとしている。
(僕とおんなじや)
自分が、自分ではなかったら……
もっと、普通の人生があったんじゃないだろうか。
戦いに身を置くこともなく、実験材料にされることを恐れることもなかったんじゃないだろうか……。
そんな自分を、愛せるはずもなくて。
他人を簡単に、信じられるはずもなくて。
きっと、僕たちは同じ。
本当は寂しい者どうしだ……。
「キミ、本当にキメラになりたいんか?
白魔法師に恨みもないのに、彼らを殺せるんか?」
「オーランド……」
「ミス・ナンシーかて、キミが帰ったら僕に手を出さないって保証ないやろ?」
「あ、その交渉を先にしなくちゃだった!いけない!」
自分が帰るから、オーランドには手を出さないでほしい。
コートニーはナンシーに約束させるのを忘れていた。
「アホやなぁ……」
どこまで真っ直ぐで、正直で、ウソがつけないんだ。
「僕はキミを殺せない。
そんなこと、頼まんといてくれ……」
「……でも」
「……うるさい!
逃げるで、コートニー。
黙って僕についてこい!」
オーランドは勢いに任せ、コートニーをぐいと引き寄せた。
漆黒の髪が、アゴの下をくすぐる。
その一本一本がどんなに邪悪な血でできていようと、綺麗なものは綺麗。
だから、自分を憎んだりしないで……。
そもそも、悪とか正義とか、誰が決める?
(そんなん知らんわ!)
オーランドは開き直った。