紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
寺院から脱出した男とコートニーは、国防省や外務省が立ち並ぶ通りを抜け、巨大な広場、トラファルガースクエアに到着し、やっと腰を下ろした。
背後の噴水は深夜のせいか、ただの水溜りになっている。
観光客もいない。
静かな闇の中、先に口を開いたのはコートニーだった。
「あなたは……何者なの?」
聞かれた男は、青い瞳を細め、笑顔で返す。
「ただの通りすがりや」
「通りすがりの、何?
もしかして、天使なの?」
「は?天使て、僕が?」
男はきょとんとした顔をしたあと、明るく笑う。
「あらへんあらへん。
こんな天使がおるわけないやろ。
僕は通りすがりのヒーローや。
ビッグ・ベンの上からロンドンの平和を見守っとったら、
死者たちが寺院に入っていくもんやから、退治したろと思っただけや。
そしたらキミがいた」
ビッグ・ベンとは、ウエストミンスター寺院のすぐそばにある、国会議事堂に併設している時計台の愛称だ。
しかしコートニーは、ビッグ・ベンは知っていても、それがどこにあるかは知らなかった。
それに男の口調はどこかふざけていて、何が本当かさっぱりわからない。