紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「……なんだか、おもしろいことになってるんだけど」
にやりと妖艶に笑い、カートは紅茶をすすった。
その目の前には、真っ黒な水晶の玉が置いてあり、その中には現在のコートニーの様子が映っていた。
「プリンセスのこんな顔、見たことあるかい?
それに騎士団側の人間が、まさか仲間を裏切るなんて。
素晴らしい。舞台のようじゃないか」
話しかけられたナンシーは、眉をひそめる。
その体のあちこちには、まだ包帯がのこっていた。
「おもしろがっている場合ではありません、カート様」
「だって、こんな悲しい純愛物語の観客になれるなんて、素敵じゃないか」
カートは笑いながら立ちあがり、コートを羽織った。
その背景にある壁一面には、あらゆる魔術に使う、動物や人間のパーツのホルマリン漬けが、ずらりと並んでいた。
ナンシーの研究室であるここのテーブルで平気でお茶を飲めるのは、カートだけだ。
「でもそろそろ、キャストとして出ていかなきゃならないかな。
プリンセスに海外に出られると、いくら僕でも手を焼いてしまう」
おいで、と彼が言うと、床で寝そべって寝ていた黒豹が、のっそりと顔を上げた。