紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「ふーん」
面白くなくて、ミルクを足したティーカップをスプーンでぐるぐるしていると、オーランドが頬杖をつき、コートニーの顔をのぞきこむ。
「嫉妬してるんか。可愛いやっちゃ」
「はぁ!?」
思わずがちゃんと手からカップがすべって、ソーサーに落ちてしまった。
その様子を見て、オーランドが声を殺して笑う。
「バカじゃないの」
コートニーは口元をぬぐい、顔を背けた。
つい先日まで、まったく相手にしてくれなかったのに、この変わりようはなに?
ついていけない……。
本気で言ってるのか、マスターに不信感を抱かせないように、軽い空気を演じているだけなのか、それすらわからない。
「よし、あとは印刷するだけ……それにしても、いったい何に使うんだ?」
ぎくりとコートニーは背をこわばらせる。
しかしオーランドは、平気な顔。
「実は彼女、ある高貴な血筋の出で、僕との交際を反対されて、家出同然で田舎から出てきてしまって。
でも僕はご両親の許しを得るまで同棲するつもりはないし、彼女ひとりでアパートを探そう思ったら、身分証明書もなんもないって言うから」
おっちょこちょいやなあ。と、オーランドはコートニーの額を指でつつく。
その目は、「話を合わせておけよ」と言っていた。
「はあ、そういうことなら保険証でも良かったんじゃないか?」