紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~


「ふーん」


面白くなくて、ミルクを足したティーカップをスプーンでぐるぐるしていると、オーランドが頬杖をつき、コートニーの顔をのぞきこむ。


「嫉妬してるんか。可愛いやっちゃ」


「はぁ!?」



思わずがちゃんと手からカップがすべって、ソーサーに落ちてしまった。


その様子を見て、オーランドが声を殺して笑う。


「バカじゃないの」


コートニーは口元をぬぐい、顔を背けた。


つい先日まで、まったく相手にしてくれなかったのに、この変わりようはなに?
ついていけない……。


本気で言ってるのか、マスターに不信感を抱かせないように、軽い空気を演じているだけなのか、それすらわからない。


「よし、あとは印刷するだけ……それにしても、いったい何に使うんだ?」


ぎくりとコートニーは背をこわばらせる。


しかしオーランドは、平気な顔。


「実は彼女、ある高貴な血筋の出で、僕との交際を反対されて、家出同然で田舎から出てきてしまって。

でも僕はご両親の許しを得るまで同棲するつもりはないし、彼女ひとりでアパートを探そう思ったら、身分証明書もなんもないって言うから」


おっちょこちょいやなあ。と、オーランドはコートニーの額を指でつつく。


その目は、「話を合わせておけよ」と言っていた。


「はあ、そういうことなら保険証でも良かったんじゃないか?」


< 161 / 276 >

この作品をシェア

pagetop