紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
自分がちょっと触っただけで、火がついたように怒ったのは誰だっけ?
コートニーが見上げると、オーランドはやっぱり笑っていた。
「かまへん、かまへん」
かまわないって……。
そんなわけないのに。
「……私、このままじゃオーランドを破滅させちゃう」
思わず、口をついて出た言葉。
オーランドの顔から、笑みが消える。
それは、二人にとって一番気づきたくないことであり、でも最初からわかっているはずのことだった。
「ねえ、やっぱり……」
「迷うな、コートニー」
やっぱり、一人で逃げる。
そう言いかけた彼女を、彼は止めた。
「僕はな、自分の心に背いて好きな子を裏切って、めっちゃ苦しんだやつを知ってる。
日本の男友達や。そいつの好きな子も友達やった。
彼女はどこからそんなに涙が出るんやろうって言うくらい、泣いて泣いて、それでも最後まで戦って、勝利したんや」
オーランドのブルーの瞳は、まっすぐにコートニーを見ていた。
「なんも犠牲にせんと、ぜーんぶ手に入れてるやつなんか、おらんねん。
幸せそうなやつらだってみんな、何かを犠牲にして、傷を負ってる」
「…………」
「今まではな、Unknownって呼ばれて、蔑まれながらも、父親の役に立っていると思うことで妥協してきた。
『自分』を犠牲にして、一番安全なところに身を置いてきた」