紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
靴の先が、焦げる。
視界に赤い炎がちらちらうつり、黒い煙が軌道をふさぐ。
思わず咳き込む。けれど、命乞いはしない。
絶対に泣くものか。
私の涙を見ても良いのは、私に綺麗なものをたくさん見せてくれた、あの人だけなのだから。
熱さが、体を包む。
それよりも、肺に浸食してくる煙が苦しかった。
「……だ、……!」
「なに……?」
白魔法師の一角から、歓声や自分に対する罵倒とは違う声が聞こえた気がした。
(ダメだわ……もう、聞こえない)
決めたとおり、目は意地でも見開いていたコートニーだが、炎より先に煙で意識が遠のいていくのを感じていた。
しかし……。
その瞳に、ちらりと金色の蝶々が見えた気がした。
「え……っ!?」
蝶々は白魔法師の頭の上を飛び回り、彼らの目に鱗粉をまき散らす。
それは目に刺激を与えるようで、彼らはまぶたを抑えて悲鳴を上げた。
「……あの、馬鹿者」
ランスロットの声が、足元で聞こえた。
まさか。
まさか、彼が来るわけはない。
体が勝手に彼を求めて、声を張り上げた。
「オーランドーーーーーっ‼」
夜空に透明なその声が響き渡ると。
金色のオーラが、ランスロットに向かって放たれた。
巨大な手が、彼を遠く背後に押しやる。
そして白魔法師の波の後ろから、天使がひらりと舞い降りた。
そんな気がした。