紅蓮の腕〈グレン ノ カイナ〉~六花の翼・オーランド編~
「おかしいよな、こんなの……」
身体の中で、怒りが燃えて、熱が全身にまわる。
「……」
「コートニーは何も悪くないのに……」
右腕の契約呪文が、赤黒い光を放つ。
その途端、すさまじい金色のオーラが足元から巻き上がり、炎を遠ざけた。
そのオーラの中に黒いものがちらちらと混じる。
「……オーランド、ダメ!
悪魔の力を解放しちゃダメよ!」
コートニーは叫ぶ。
それは、直感で思ったことだった。
しかし。
「……僕はな、コートニー。
大事なもんをここまでコケにされて、それでも笑ってられるほど、心が広くないねん……」
ぼこり、ぼこり。
オーランドの右腕は肩まで紅蓮に染まり、形を変え始める。
「僕のことやったら、まだ我慢できる。
けどな、キミにこんなことするやつらを、どうしたら許せるって言うんや?」
心まで……いびつに、形を変えていくようだ。
覚醒していく。
孤独な傷跡が裂けて、自分じゃない何者かが顔をだすような感覚。
それは、蓄積したこの残酷な世界への憎しみ。
「オーランド……お願い、大丈夫よ。
私は大丈夫だから。
この縄をほどいてくれれば、それでいいわ……」
コートニーの言葉に、首を横にふるオーランド。
それでも左手は、彼女の拘束を解いた。
「キミは、遠くへ逃げるんや」
「何を言っているの」
「僕は……騎士団も組織も、ぶっつぶしてやる……。
キミ以外は、全部……」
スカイブルーの瞳に怒りの赤が燃え、マゼンタへと変わっていく。
それはオーランドが悪魔と化していく証拠だった。
ああ、僕が僕でなくなっていく。
それでもいい。息が苦しいだけで、他は意外にそう悪くはない。
この体が悪魔に奪われようが、彼女を守れさえすれば、それで……。
「正義ぶりおって……」
低くなるオーランドの声に、コートニーの背が震える。