王に愛された女




 だが今は、自分からガブリエルを求めてしまった。

 今まで自分から体を求めたことがない分、オラシオンは戸惑った。

 ガブリエルが持っていた取り分け皿が床に落ちて割れた。だが、オラシオンは気にしなかった。

 一度も感じたことのない感情が胸の奥に押し寄せる。

「…好きだ」

 単純に、ガブリエルのことが好きになった。今まで、誰にも思いを寄せなかったが、ガブリエルにだけは惹かれた。

「好きだよ、ガブリエル」

 腕の中のガブリエルが、そっとオラシオンの背中に腕を回した。

「…王様…?」

 ガブリエルを強く抱きしめた。オラシオンは、なんとなくガブリエルの姿に亡き母の姿を重ねた。

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