王に愛された女



 米粒を一回り大きくしたような大きさの文字だ。

 ガブリエルが腰の巾着に入れている赤い玉みたいに彫ったまま何も装飾されていないため、ただの引っ掻き傷にも見える文字をよく観察する。

 文字が何か分かった途端、ガブリエルの体を電撃のようなものがはしった。

「まさか!」

 左腕に巻いてある包帯を外す。

 赤い玉も巾着から出した。

 左腕の刻印と赤い玉を見比べる。そして、赤い玉と石の文字とを見比べた。

 どの文字も全く同じだった。大きさや色こそ違うものの、彫られている文字は同じだ。

 そう、梵字のア字によく似たあの文字だ。

「…なんで…」

 ガブリエルは自分の肩を抱いた。

「何やってるの?」

 後ろから聞こえた声に、ガブリエルは立ち上がった。

 イヤリングを元の場所に戻し、振り返る。

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