王に愛された女
「俺さ、オマエの腕の刻印について気になったから昨日の夜、王立図書館まで行って調べてきたんだ」
ガブリエルは驚いてフィオーレを見た。洗っている最中の服が川の中に落ちる。
服を慌てて拾いながらも、ガブリエルの視線は兄を捉えていた。
「…何か、わかったの?」
「いや…大したことは。でも、分かったこともある。この村にさ、アリシアって女がいたの覚えてるか?」
ガブリエルは頷いた。
二年ほど前に北の領土ムロヤへ行ったきり戻ってこない村人のことだった。
「あの女の右腕にも梵字に似た刻印があったし、それに…フリーゼル伯爵も刻印を持っている。彼が自ら執筆した本に書いてあった」
「伯爵の刻印は、どこに?」
ガブリエルは恐る恐る聞いた。
「背中だ」