王に愛された女




 王妃が頷いた。

 アリシアは王妃を立ち上がらせ、倒れている国王の肩に腕を回して彼が倒れないように固定した。

「行きますよ、王妃様」

 王妃が再び頷く。

「…アリシア、なんで私たちを逃したの?」

 不思議そうに王妃が問うた。

「…王妃様のおなかには、子供がいるんですよ?それに、私が二人を苦しめてしまったも同然ですから。だから、私が二人をお救いします」

 アリシアはそう言って、王宮の敷地内にある荷車の藁に国王を寝かせた。

 王妃もそれにならって藁の中に寝転がる。

「…あくまで、二人は死んだことになっていますから」

 アリシアは荷車に馬小屋の馬を繋げ、馬の世話をしている男に荷車を動かすよう頼んだ。

 それから、もう会うことのない二人を乗せた荷車を遠くから見送った。

 荷車が見えなくなっていく―――。

 荷車が見えなくなってから、アリシアはルークのもとへ向かった。二人が死んだという事実を一刻も早く告げる必要があった。

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