月陰伝(一)
「マリュー。
それで、その神族の女はどうする」

フィリアムの言葉に、強い意思でもって答える。

「捕らえる必要がある。
早急に部隊を整えよう手配してくれ」

この件で、結華が怪我をした事は、ここに居る幹部全員が知っている。
それにより、完全に彼の神族を敵と見なしていた。

「結華はどうする?
勿論、俺もあれを巻き込みたくはないが、あの性格だ…必ず、部隊に入ると言ってくるぞ?
お前も、そう言われたら押し切られない自信はないだろう?」
「……っ…」

その言葉に、誰もが口を嗣ぐんだ。
結華は有能だ。
今回、あれほどの事件にも関わらず、最低限の被害に留まったのは、結華の対応の成果と言えよう。
神族にとっての天敵である精霊使いと言うのも大きな強みである。
そして、それ故に、この件から手を引く気はないだろう。
対抗する為には、自身が有効だと気付いたはずだ。
その場合、最善策として、先頭を切って事に当たる。

「結嬢ちゃんは止められんだろ。
あの嬢ちゃんは強い…精神的にも、能力的にもな…。
今回の事は、護らねばならん者たちが傍に居たからこその結果だ。
ならば、嬢ちゃんが自由に動けるよう、補佐役に徹しられる部隊を作ってはどうだ?」
「そうね…結華ちゃんがうしろを気にしなくて良いなら、あの子に敵はないわ」
「結華の事を考えるならば、それが一番だな。
マリュー、諦めろ。
誰にも結華を止める事はできん」
「…仕方あるまい…」

ここにいる全員が、結華の性格を良く知っていた。
無謀にも思える作戦も、あっさりとこなす身軽さと頭の回転の早さ。
あの年で、多くの役割を使い分けられる柔軟な思考。
どれを見てもこの月陰の幹部として申し分ない。

「マリュー、先に言っておくけど、魔女候補にあの子は入ってくるわよ。
正確な魔力測定をしていないけど、私と同等…下手をすると、それ以上の魔力を持っていると思うの。
ただでさえあの子は、あの年で魔術師としてマイスターの称号を持っているわ。
通常なら百年はかかる課程を、たった数年で終えた子だもの。
これで魔女にならなかったら、いずれ大変な事になってしまうわ…」
「「「……」」」

確かにそうなのだ。
魔女は、魔力が異常に高い異常者。
その莫大な魔力の為に、世界を混乱させる可能性がある、危険な存在。
故に、『世界の守護者』として、世界の柱となる事で、自らの魔力を調整する。
魔力とは力だ。
莫大な力は、毒となる。
その為、暴走してしまうのだ。
魔女となる事は、彼らの救済措置でもある。

「結華は決まりだろうな。
自覚もあるだろう。
ふっ、二つ名が面白い事になりそうだがな」
「そうだなぁ。
既に『紅の姫』『緋扇の舞姫』『黒き悪魔』と色々あるからなぁ。
うちのじゃじゃ馬の『夜の女王』も随分だ思ぅたが、どうなるか…」

この場に集った誰もが、未来の最強の魔女の行く末に、期待と不安を抱くのだった。



後に、『月影の魔女』と呼ばれるようになる、歴代最強の魔女と、同じく『夜闇の魔女』と呼ばれ、夜陰を率いる事になる少女。
史上最年少の魔女となる二人の少女達と、この先、月陰をまとめていく若者達。

彼らの行く末は、波乱に満ちた未来。
しかし、揺らぐ事なく立ち向かう彼らは、これからの長い長い時を、月影の中で過ごす。
決して表に出る事なく世界を守り続けていくのだった。


月陰伝(一)‡完‡

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