星月夜のマーメイド



「あれから彼との話し合いも何となく延ばし延ばしになって、それで今日…。」


先程ダンナさんとの出来事を中島さんに電話で報告した。


「それにしてもお義父さんは本当にひどい人ね。見合い相手に赤ちゃんが出来たことをわざわざ伝えにダンナさんも東京まできたんでしょ?それを彼が話す前にエレンちゃんに言うなんて…。」


そう、彼はお見合い相手を妊娠させた。


お見合い相手といっても、昔からよく知る仕事関係の人の娘さんだったらしく、納まるべくして納まった感じなのかもしれない。


「彼の最後の誠意に私が逃げていたのだから、彼には申し訳ないことをしたと思っています。」


中島さんは黙ってしまった。


おそらく電話口で泣いているのであろう。


「でも光輝君に救われました。」


「やるじゃない、あの子も。」


あの時光輝君がそばにいてくれてよかった。


でもまさか私の事を好きでいてくれたとは気が付かなかった。


「気が付かなかったのはエレンちゃんだけよ。図書館のみんなも知っているし、私なんて最初から見抜いていたわよ。」


光輝君は優しくて素敵だと思う。


単純に嬉しいけれど、学生の光輝君に身を任せることはできない。



「それで、実家に戻る決心がついたのね。」



< 76 / 79 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop