祈りの月
「本当に君だったのか・・・・・・」

 ぽつりとカイは呟いた。

『驚いた? 船が見えたから来てみたの。これで信じてくれたでしょう?』

「ああ」

 レイアに触れた指先から、カイの中にゆっくりと喜びが広がっていく。

 生きていてくれたのだ――この汚染されてしまった海の中で。

 海に、初めて感謝したくなった。

 ずっと、カイにとっての海は――いくら大切であっても――過去の苦しい思い出の塊でしかなかったから。

 見る度に思い出してしまう・・・・・・父の会社のせいで海が汚染され、たくさんの生き物が犠牲になってしまった事がカイに常に重くのしかかっていた。

「まさかイルカに会えるなんてな」

 操縦室からドゥリーが戻ってくると、カイの横から身を乗り出した。

「すごいな・・・・・・。とても綺麗なイルカだ」

『どうもありがとう』

 聞こえた声に、ドゥリーはぎょっとする。

「今の声・・・??」

「聞こえたのか?」

「ああ、聞こえた」

 うなずきながらドゥリーが答える。


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