祈りの月
 彼女が、ティルア人でも地球人でもないという事実が、カイの中に存在していたレイアに対する壁を打ち砕いていた。

 カイの過去を、父のことを、彼女は何も知らないから。

 心を守らなくても――大丈夫だ・・・・・・。

「今日は驚いてくれた?」

 笑みを含んだ瞳で、レイアがカイを覗き込む。

 カイは素直に頷いた。

「驚いたよ。まさか、来るとは思わなかった」

「ドゥリーも驚いてたね。平気だったかな・・・・・・本当はカイだけの時が良かったんだけど」

「あいつは――わりとなんでもすぐに受け入れられるから、心配ないよ。その証拠にすごい質問してたろ」

「そうね」

 くすくすと思い出してレイアが笑い声を立てる。

「楽しい人だった。カイと仲良しなの?」

「学生時代からずっと一緒だからな」

「――そっか」

 少し寂しそうに呟いてレイアは抱えた膝を見つめた。

「いいね・・・・・・うらやましい」

 ひどく悲しげな声音。

 ざぁぁぁあん・・・・・・と打ち寄せる波に、小さな声はかき消されて、カイはそれに気づかない。

「レイア、ひとつ訊いていいか?」
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