祈りの月
「そうか。――体は、平気?」

 研究者として、それはカイが一番レイアに尋ねたい事だった。

 レイアがイルカで、汚染された海に住んでいる以上、彼女の身体の事が気にかかる。

 研究者たちは、イルカが絶滅したと考えている。

 汚染された『原始の海』で生き残ることが出来なかったと――。

 事実、イルカは目撃されていないのだ、この10年ほどは。

「海にいて、苦しくない?」

「・・・・・・え?」

 意外なことを訊かれたのか、レイアは大きな瞳を見開いた。

「海の異変に気づいてるだろ? 体は、大丈夫なのか?」

「・・・・・・だいじょうぶ」

「本当に?」

 カイが疑うように重ねて尋ねると、レイアが楽しそうに吹き出した。

「・・・・・・何?」

 そんなに変な事を言ったろうか。

 真面目に話していたカイは少し憮然としてしまう。

 レイアは、両手で口元を押さえてしばらく笑った後、口を開く。

「ごめん、だって、カイったら質問ばっかりなんだもん」

「確かに・・・・・・そうだな」

 指摘されて、カイは自分が畳み掛けるように質問していたことに気づいた。

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