祈りの月
 この水槽の世界が、ティルシアの今の海だ。

 魚たちが、住めない、海――。

 いや、正確に言えば、魚たちは綺麗な水で生きることに適応できなくなってしまっている。

 海から捕獲後、すぐに綺麗な海水に移し変えたのだが、魚は、綺麗な水に耐え切れなくて死んでしまった・・・・・・おそらく体内に蓄積された、毒素のせいで。

 自らの体内の毒で・・・・・・。

「――」

「あんまり思いつめるなよ!」

 水槽を見つめたまま押し黙っているカイを気遣って、ドゥリーが明るく励ます。

「明日、早くに船を出そう。大丈夫、あと5ヶ月ある、何かはできるよ。少しずつ研究も進んでるんだし」

「ああ、そうだな」

 気を遣う友人の言葉に、カイが小さく笑って頷く。

「あと5ヶ月したら地球へ帰還、か・・・・・・変な気分だな」

 ぼそり、とドゥリーが呟いた。

 全盛期には、何万人といた地球人も、今はだいぶ減ってきていた。

 しかもここ10年、地球政府の方針が変わり、帰って来たければ、地球に帰ってきても良い、というのだ。

 年に一度ほどの割合で、地球政府の船がティルシア――地球間を航行していた。
 
 今度は、5ヵ月後に、地球への船が出る。
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