祈りの月
 ゆらゆらと海が揺れる。

 月光のみに照らされている時、海の中は薄暗く、闇の中で柔らかい揺りかごに包まれているようだった。

 優しい海だと思う。

 ティルシアの海は・・・・・・。
 
 柔らかい水の動きに身を任せながら、そっと目を閉じてレイアは思い出す。

 独りで、広い海を泳ぎ続けた時の事を。


 きっと、どこかに仲間がいるはず――。

 きっと、いつか会えるはず――。


 そう信じて、何年何年も海を泳いだ。

 南から、北へ。

 東の海も、西の海も。

 祈るように、海を泳ぎまわった。

 けれど、誰もいなかった・・・・・・。

 誰も見つからなくて。
 
 まだ幼かった頃、周りには母親も兄弟イルカもいた。父は知らなかったけれど、稀ではあるが海を泳げば他の群れに会うこともあった。

 けれど、少しずつ、みんないなくなってしまった・・・・・・。

 いつの間にか。

 海の底へ、いってしまった・・・・・・。
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