祈りの月
「――じゃあ、絶滅してもかまわないのかっ!?」

 カイの激昂ぶりに驚いてレイアが視線を上げる。

 カイはレイアの両肩を掴むと強く揺すりながら言い募った。

「君は独りでも平気だから、そんな事が言えるんだ!」

「――! 平気じゃ、ないわ!」

 レイアがカイの手を振り払った。

 彼女の瞳に、怒りの光が走る。

「でも、仕方がないのよ! カイには、きっと分からない! 海に生きていないあなたには分からないのよ!!」

 海に、生きていない--突き放すような台詞にカイは押し黙った。

「――ああ、そうだな」

「・・・・・・」

「俺には、分からないだろうな、きっと」

 カイの冷ややかな声音にレイアが黙り込む。

「俺は、もう帰るよ――おやすみ、レイア」

 一方的に言って、カイは、踵を返した。

 彼女に背を向ける。

 引き止める声はなかった。

 振り返ることなく、カイは苦い思い出を持つその場所をゆっくりと後にしたのだった――。
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