祈りの月
 この、汚れた海から・・・・・・父の手から。

 汚染された海は、いつか彼女を飲み込んでしまうだろう。

 もう、レイアは、惑星で唯一の生き残りだ。

 つまりイルカに、汚染毒の影響は出るということだ。

 クロス博士や、他の研究者が危惧するように、全滅の危機にあることにかわりはなかった。

 今夜も、海岸にいるのだろうか――。

 思いついた疑問を、カイはすぐに打ち消した。

 来ているわけがない。あんなに酷いことを言ってしまったのだから。

 もしかすると、レイアは二度とカイの元へ現れないかもしれない。

「俺は、本当に馬鹿だ」

 カイは独白して、椅子から立ち上がった。

 レイアの傷ついた瞳が脳裏から離れない。あの、美しい夜色の瞳。

「―」

 カイは部屋を出ると、雨の中を海岸へ向かって走り出した。
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