俺様と闘う私『一部・完』
 それからというもの、契約通りに志貴の家を訪ねるも奴はいつも不在だった。


 仕方なく隣の渡辺さんご夫婦に、志貴にヤクルトを渡したい旨を伝えると



 「分かったわ~。あの子、ほんっとにトロ臭いわよねぇ?」

 「トロ……!?」



 何を持ってトロ臭いとおっしゃっているのかはちんぷんかんぷんだったけれど。


 どうやら渡辺夫人は、私と志貴をくっつけたいらしいってことは薄々分かってきた。



 それが不思議で、なぜ私? と尋ねると



 「だって可愛いし、ねぇ?」


 と言われたので、苦笑するしかなかった。


 もし本当に私が可愛いのだとしたら、こんなに彼氏いない歴が続くわけがない。


 そうやって適当に話を終わらせて、事務所に帰る。


 ―――なんとなく、志貴に会えなかった今日も……と感じる自分が居た。


 人のファースト奪っておいて、後はほったらかしで。


 契約したくせにヤクルトは受け取らないし。



 ―――ムカつく、なんかすごく。



 振り回されてばかりの自分が嫌になっていた。


 ――――――



 おばあちゃんのことは、お母さんが全て対応してくれた。


 私に出来たのは、葬儀の当日の対応くらいで……


 でもそれすらも、極身内だけで執り行ったので、大したこともなかった。


 だって、来たのはおばあちゃんの妹だけだったから。


 盛大に行ってあげたかった、とは思う。


 けれど亡くなった経緯を思うと、騒ぎ立てて欲しくなかった。


 ただ、そっとしておいて欲しかった。


 そんなことを思うたび、まだ見つからぬ犯人に私は苛立ちを覚えた。
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