澄んだ空の下で
ここまで来ると、もうどうだっていい。
振られても、寒さを理由に記憶がなくなったと思えばいい。
寒すぎて、何も覚えてなかった…みたいな。
手が悴みすぎて、思うように動かない。
その冷たくなりすぎた手をゆっくりとあげ、インターホンを押した。
押して思った。
このインターホンは鳴っているのだろうか…なんて事を。
ここを上がって来た時にも思った。
階段がギシギシ言って、壊れそうって思った。
なんで、こんな所に…
少し待ってみたものの、何も反応がなく、もう一度、押してみる。
あぁ…寒い。
本当に寒い。
全身が寒くて、身体が振るえる。
寒すぎて、帰りたい。
でもここが何処かも分かんなく、駅だって分かんない。
だけど。
寒すぎて、
やっぱり帰ろう――…
「…え、若菜?」
俯いていたあたしの耳に、届いた声。
ゆっくりと視線をあげると、物凄く驚いた表情をする恭が居て…
ほんとに居る。って思った瞬間、目に熱いものが込み上げて来た。
「…来ちゃった」
そう呟いて、うっすら微笑む。
「来ちゃったって…は?…どーやって?」
「ごめんね、急に。セナさんに送ってもらった」
「だろーな、アイツしか居ねーもんな」
「……」
「つかいつから居た?お前、真っ白すぎ」
恭の伸びて来た手があたしの頭と肩の雪を払う。
その仕草にあたしの心臓が加速する。
…やっぱ、恭の事が好き。
「とりあえず入れよ」
「……」
何故か足が進まない。
好きなのに、この先、何を言われるんだろうって思うと足が進まなくなってた。
「若菜、寒いから入れって。…冷て、」
手を握られた瞬間、恭の温もりで悴んでいた手が温もりだす。
暖かい。
恭の手があまりにも暖かかくて、心が落ち着く。
引っ張られるようにして、中に入った時、思わずあたしは辺りを見渡していた。