◇桜ものがたり◇
「光祐さま、祐里でございます。果物をお持ちいたしました」
祐里は、扉を入ると、光祐さまの顔を見ることなく、円卓に果物の皿を置く。
光祐さまの顔を見てしまうと、
涙が止めどなく溢れてしまう気がしてならなかった。
光祐さまは、力いっぱい祐里を抱き締める。
祐里の手から盆が転がり落ちた。
「祐里。昼間は、何も助けてあげられなくてすまなかった。
よく独りで頑張ったね」
光祐さまは、祐里を泣かせてばかりいる自分の力のなさに心を痛めていた。
祐里は、光祐さまの包み込むような優しい声に、
昼間からの緊張がどっと解けて、
光祐さまの温かい胸に縋(すが)って泣きじゃくる。
文彌に見つめられ、抱き竦(すく)められ汚(けが)された漆黒の心の闇が、
涙とともに晴れていく。
「祐里の振り袖姿は、榛様に見せるのが惜しいくらい
とても似合って美しかったよ。
すぐに褒めてあげられなくてすまなかった。
心の狭いぼくを許しておくれ。
これからは、何があろうと絶対に祐里を守るからね」
光祐さまは、祐里を長椅子に座らせて向き合うと、
指先で祐里の溢れる涙を拭う。