白い金の輪


 寄る年波には勝てず、私も夫も年々体力が衰えていく。
 このまま家に引きこもる生活を続けていると、益々衰えてしまうだろう。

 近所に出来た家庭菜園の土地を借りて、野菜でも作ってはどうかと、私は夫に勧めた。
 夫はあっさり了承し、野菜作りを始めた。

 働いていた時のように、毎日お茶と弁当を持って出かけては、夕方に帰ってくる。
 何事にも真面目な夫は、私に与えられた新しい仕事だとでも思っているのかもしれない。

 気になって様子を見に行ってみると、夫は真剣な表情で野菜の世話をしていた。
 けれどこころなしか楽しそうにも見える。
 土いじりは好きだったのかもしれない。

 私は気付かれないように、そっと畑を後にした。

 しばらくして夫が病に倒れた。
 手術で一命は取り止めたものの、その後も入退院を繰り返した。

 そしてとうとう退院できなくなった。

 年齢的にも、もう一度手術をするのは難しいだろうと医師は言う。

 元々細かった夫は、益々痩せて細くなった。
 最近は薬の影響なのか、日中でもうつらうつらしている事が多い。

 頭はしっかりしているようで、娘や孫が見舞いに来た時だけ嬉しそうにしていた。

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