白い金の輪

 産んでくれと手放しで喜ぶ夫に、私は冷たく言い放った。


「子供を育てるにはお金がかかるの。産んで欲しかったら、女房を働かせなくてもいいくらい稼いできて」


 私の心ない言葉に、夫は怒るでも反論するでもなく、黙って中絶を承諾した。

 堕胎した子は、夫の欲しがっていた男の子だった。

 その時を境に、私たちは肌を合わせる事がなくなった。
 夫はとうとう私に愛想を尽かしたのかもしれない。

 最初から愛などなかった。
 けれど一緒に暮らし、肌を合わせているうちに、情も湧いてくる。

 近所に友人知人が増えるにつれ、他人の話を聞くうちに、私は随分いい人と結婚したのだと悟った。

 私は夫を拒みはしなかったが、受け入れてもいなかった。
 素っ気なく冷たい私に、真面目な夫は、浮気もせず、手を挙げる事もなく、無愛想ながらも優しく接してくれる。

 愛想を尽かされて、初めて気付いた。
 そんな優しい夫を、私は愛し始めていたのだ。

 愛されていない事、愛想を尽かされた事が、こんなに悲しいと思えるほどに。

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