ポケットに婚約指輪

舞波さんのことは嫌いじゃない。

好きだった、とても。
彼がくれる言葉が、すべて真実だと思えたときは。

でも今は良く分からない。

あなたは何を考えてるの。
誰が言ってることが正しいの?

分からない、分からない、分からない。


感情の軸がぶれる。
何に興奮しているのか自分でも分からなくなる。

ただ、何かが弾けて止まらなくなって、視界が潤んでくるのが分かる。


「……っ」


聞きたくない言葉を遮る時の、彼の常套手段はキスだ。

唇を塞がれて、私の感情は出口を無くして体内で渦を巻く。

――やめて。

そう思いながらも、体は大人しくなった。
背中に回る腕、大きな、そして懐かしい胸。

――やめて。

叫んでいるのは理性だろうか。
思いと裏腹に私の手は彼の服をしがみつくように掴んでいた。


「……菫、悲しかったんだろ。馬鹿だな、あれは駆け引きだよ」


一度唇を離してそっと呟き、もう一度塞がれる。
私の返答はいらないよとでもいうように。


「好きだ。可愛いな。なぁ、何にもしないから家に入れてくれよ」


唇を甘噛みされる。
変な神経が刺激されて、首筋の辺りがゾクゾクする。

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