ポケットに婚約指輪
「……変わりたいです」
ようやく心の奥底から出たその言葉を口に出せた。
変わりたい。
強くなりたい。
里中さんは満足そうに笑うと、私の手からカバンを取る。
「じゃあ、次は食事に行こうか」
「はい」
「何が食べたい?」
“何でもいいです”
それがいつもお決まりの返事だった。
誰かに合わせるのが当たり前。
人を不快にさせるくらいなら自分が我慢した方がいい。
でもそうじゃない。
私はずっと、そうやって自分が楽をしようとしてきたんだ。
「……野菜が食べたいです」
「野菜? 漠然としてるね」
里中さんは怒らない。その言葉を受け止めて笑う。
「最近ちゃんと料理もしてなくて野菜不足なんです」
「ジャンルは何でもいいのかな。そうだな、ここだと1階に蒸し料理の専門店があるんだけど。そこ行ってみようか」
「はい!」
自分の言葉を受け入れてもらえて、ようやく笑顔になれる。
不安ばかりで見えなくなっていた視界が、少しだけ開けてきたような感じ。
「やっぱり笑った方がいいよ」
そんな言葉を耳元に落とし、そっと背中を押してくれた彼に、胸が温かくなった。