ポケットに婚約指輪
「次、すぐ来るからいいでしょ」
「あ、じゃあ残りは差し上げます」
「ありがと。えっと、名前なんだっけ。俺は武井直之(たけい なおゆき)」
「塚本菫です」
「菫ちゃんか。かっわいい名前だね」
笑い方が豪快だ。綺麗な白い歯が見える。
体格もいいし色も黒いし、運動をする人なのかもしれない。
「さっきからあんま会話に混じってないけど。菫ちゃんって人見知り?」
「ええ。それもありますけど。私今日は人数合わせで来てるので」
「あー、彼氏とかいるんだ」
「はい」
「俺もいるよ、彼女。一緒だね」
「そうなんですか」
それを聞いてホッとした。だったら時間までこの人と話していてもいいかもしれない。
やがて店員さんが持ってきてくれたミモザを一口のみ、私は武井さんの話に耳を傾ける。
「俺趣味でバスケやってるんだけどさ。社会人になるとなかなかコート確保が難しいんだ。人数集めもね。菫ちゃんって運動する人?」
「いえ、私は運動は全然」
「そうなんだ。今度教えてあげようか。俺かっこいいよ、フリースローとか得意」
「へぇ、そうなんですか」
武井さんの話はちょっと自己愛が強くて引き気味になるけど、それでも楽しい雰囲気を創りだそうと努力してくれてる。グラスが空になる前に次のを注文してくれるし、とても気配りのきく人なんだろう。