ポケットに婚約指輪

宴もたけなわという時間になり、刈谷先輩たちは2次会の相談をし始めている。


「あ、私はここで」

「えー、菫も行きましょうよ」

「ごめんなさい。刈谷先輩」


頭を下げると、刈谷先輩は「仕方ないわね」と鼻息を荒くした。


「さ、残りのメンツは行くわよー、2次会」


彼女の盛り上がりに合わせて、人波が移動していく。私は小さく頭を下げてその場から抜けだした。


司さんにメールしようか。
でもまだ電車は動いているから、一人でも帰れるのだけど。

そう思いつつ、数歩歩くと頭がくらくらする。
足取りも、ふらふらしてるかも。
少し、……飲み過ぎちゃったかなぁ。


「おわり、まし、た」


ふらつく足取りのまま、携帯でメールを打ち込む。
スマホだから両手じゃないと作業できなくて、酔いの回った体では左右に振れながらじゃないと歩けない。


「危ないよ。菫ちゃん」

携帯が、目の前から上方向に抜き取られた。


「え?」


振り向くと、武井さんがそこに立っている。


「え? あの、2次会は」

「菫ちゃん行かないって聞いたから、俺も抜けてきちゃった」


可愛く笑われても、困る。
どうして私が抜けたらあなたまで抜けるの。


「携帯、返してください」

「返してもいいけどカバンにしまったら? ふらついてて危ないよ」

「あ、はい」


携帯を受け取ってカバンにしまう。
どうしよう、司さんにまだ連絡出来てないのに。

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