ポケットに婚約指輪
「怖がらなくても何もしないから、ね」
会ったばかりの人の言葉を信用なんて出来ない。
ただの親切心なのかもしれないけど、嫌だ。
何もなくたって、好きな人以外とこんなホテルに入りたくない。
それでも突っぱねて逃げるには酔いが回りすぎていた。
視界が安定しなくて、気持ち悪くて目を瞑る。
嫌だ、嫌だ、嫌だ。
司さん助けて。
願ってもここに司さんはいない。
ああ、一次会が終わってすぐにメールじゃなくて電話をすれば良かった。
「ね、ほら」
武井さんが私の二の腕を掴んで持ち上げた時、私のカバンから大きな音が鳴り響いた。
「うわ、何?」
「電話……」
がさごそとカバンを探り携帯を見る。
ディスプレイに示された名前に安堵の息が漏れ出て、急いで着信ボタンを押した。
「つ、司さんっ」
『菫、今どこ? もう終わったんでしょ』
「なんで知ってるんですか?」
『刈谷さんが電話くれた。菫のこと追っかけていった男がいるけど大丈夫なのーって』
「や、私何もしてないですようっ」
『でも結構飲んだんでしょ。それも刈谷さんから聞いた。とにかく、最寄り駅までは来てるんだ。菫はどこにいる?』
「え、なに? 彼氏?」
横から、口をだすのは武井さん。
やだやだ。司さんに聞こえちゃう。
変な誤解はされたくないのに。