ポケットに婚約指輪
「そうです。私帰ります」
「でもその調子じゃ、ちゃんと歩けないでしょう」
私達の会話を耳を済まして聞いていたらしい司さんは、不機嫌さをもろに声に表して言った。
『……誰か一緒にいるんだ』
「司さん、違う。私っ」
『近くにある建物の名前言って。迎えに行く』
「司さん、誤解しないでください」
『いいから言えって』
半ば脅される形で、私は近くにあった電柱に書いてある住所を読み上げる。すると数分もしないうちに司さんが路地に入ってきた。
座り込んでいる私と、一応傍についていてくれる武井さんをみて、ものすごく嫌そうな顔をしたけれど。
私は彼の姿を見た途端、誤解される不安よりも安心感が広がって、思わず子供のように手を伸ばしてしまった。
「つ、司さぁんっ」
「なんでこんな細路地入ってんだよ。……ええと、菫がご迷惑を?」
「いえ。かなり酔っていたようだから休ませようとしただけで」
「こんな場所で?」
「別にエロい目的じゃなくって。ホントに休ませようと思っただけですよ。俺もほら、彼女いるし」
あくまでもさらりとそう言ってしまう武井さんは、本当に悪気なんて無かったのかもしれない。
だけど司さんは彼の胸ぐらをぐいとつかみ、武井さんの大きな体を壁に押し付けた。
武井さんのほうが体も大きくて筋肉質なのに、凄みは司さんのほうがずっとある。