ポケットに婚約指輪

「……っ」


胸の奥がもやもやする。
どうしようもなく、苦しい。
自虐的な思考を止められない。


「塚本、悪いがこの資料を三十部作ってくれないか?」

「は、はい!」


声をかけてくれた部長に心底感謝する。
どこまでも落ちていきそうだったから。
自分が悪い方向へとしか考えられなくなった時、留まり方を私は知らない。



*





 18時半を過ぎた頃、刈谷先輩が立ち上がる。
そそくさとポーチを持っていくところを見ると、これから化粧室でお化粧直しの時間だろう。

そして私の携帯にはメールが入る。

【里中です。帰社の予定が遅れたので直帰にしました。駅で待ち合わせましょう】

連絡事項もスマートだなぁ、なんて、そのソツのないメール文章を見ていると思う。

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