ポケットに婚約指輪


【分かりました。先に向かってお待ちしています】

返事をして、帰る準備をする。化粧室まで刈谷先輩を迎えに行くと、まつげが盛られていた。

「どう? 菫」

「……ちょっと、頑張りすぎじゃないかと」

さすがに、そこまで昼間と差があっては逆効果なのではと思うのだけど。


「馬鹿ね。あなたのために綺麗にしたのよ、ってアピールよ」

「はあ」

「健気なところに男の人は弱いもんよ」


その言葉には同意するけど、まつげを盛ったことでは健気さはアピールできないと思う。

だけどそれを口には出せない。
ただ曖昧に笑って、刈谷先輩を化粧室から引っ張り出す。

待ってますなんて返事したけど、このままじゃ私たちの方が遅れそうだ。


「刈谷先輩、ほら、遅れちゃいますよ」

「ああもう。なんで何でもっと早く呼ばないのよ!」

「……すいません」


あなたが遅いからじゃないですか。

心の中では不満がうごめいているのに、何で言えないんだろう私。
明らかに私が悪いわけじゃないのに。
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