ポケットに婚約指輪
息を切らしながら向かった駅前。
吸い込まれていくような人ごみの中で、一人だけその場にたたずむ男性の姿が見えた。
彼は体が大きい。
こんなに人がたくさんいても、同じようなスーツの人間がたくさんいても何故か目を引く。
どうしてだろう。
「やあ」
「遅くなってすい……」
「里中くん、ごめんねぇー。待った?」
私の謝罪は刈谷先輩の声にかき消されて消える。
ちゃんと伝えたいのに、私は刈谷先輩を押しのけてまでは話ができない。
いつもならそんなことを気にはしないのに。何でだろう、胸がざわざわする。
「塚本さん、行くよ」
「そうよ、菫。ほら早く」
「すいません」
先を行く二人を追いかけるように進む。