赤き月の調べ


 エンジン音がしなくなった頃、腕時計に視線を落として、余裕すぎる時間に自然とため息が漏れた。


 近くにカフェ付きのコンビニが一件あるけど、店員のやる気のなさに一度も時間潰しのために入ろうと思ったことはない。


 選べる道は、たったの二つ。


 開店時間でもない店に入って、早めに入荷したての本を段ボールから出すか、本を読むかだ。


 入り口に向かいながら、入館証が入ったパスケースを、ごちゃごちゃした鞄の中から探し出した。


 建物は多くのビルに囲まれているが、今の時間は昼間とうって変わって違う雰囲気が漂い、活気のない空気は妖しくて重い。


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