赤き月の調べ



「これで、いいかな?」


「はい、ありがとうございます。こちらが、ご注文いただいた本です」


 書類とペンを返された代わりに、紙の袋に入れた本を手渡した。


「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております、黒峰様」


「ご苦労様。それと、朔夜でいいよ……希空」


 名前を呼ばれたことに驚くと、彼は自身の胸元を叩いた。


 示された場所を見ると、名札が目に入る。


 朔夜は柔らかな笑みを浮かべると、振り返ることなく足早に去っていった。


 はじめてのことだ。


 客から優しい言葉をかけてもらったのも、名前を呼ばれたことも。


 一気に膝から力が抜け、椅子にへたりこんだ。


 頭の中は、朔夜の顔と声で一杯になってる。


 また、会えるだろうか。


 そんなことしか、考えられなかった。


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