赤き月の調べ
[二]
――強烈すぎる。
建物から出た朔夜は、壁に背中をつけるとそのまま座りこんだ。
いまだに、希空の匂いが口の中に残っている。
これほど、朔夜を匂いで打ちのめす相手は、はじめてだった。
百年近く人間の生き血を吸っておらず、どんな飢餓状態でも人間を咬みたいという衝動を覚えることはない。
なのに、今夜ときたら書店に入った瞬間から、頭がおかしくなりそうなくらい血を欲した。
一度、出直そうと思ったのに、本能が理性を呑み込み、気がつけばレジの前に立っていた。
さらに、血の香り以上に彼女自身が最高だ。
危うくレジを飛び越え、朔夜は自分のモノにしてしまいそうになっていた。