甘い蜜
店がもうすぐ閉店する頃、智也が凛にアフターに誘う声が聞こえた。
凛が嬉しそうに「行く!」と答える声。
でも、あたしは誘われなかった。
翔琉の口からアフターの誘いが出ることはなかった。
指名されてアフターに誘われなかったのは、初めてかもしれない。
アフターは嫌い。
でも誘われないと、それもそれで嫌なことを知った。
ーーーわがままだよね。
急に寂しくなって、
「…翔琉?」
彼の名前を呼んでいた。
あたしの声に、あたしを見る翔琉。
目が合うと、目を逸らすのが勿体無く感じた。
数時間前に、すれ違った時と同じ目。
今こうして隣に座っていることが、改めて不思議に思えた。
ーーーやっと少し仲良くなれたのに、このままここで終わりなんて嫌だ。
せめて連絡先だけでも、と思い
「番号おしえて?」
と聞いてみた。
でも翔琉は、目線を逸らす。
その横顔は冷たくて、
「営業メールならいらないから」
その言葉も冷たくて、
さっきまでの楽しい雰囲気は、二人の間にはなかった。