甘い蜜
混み合うエレベーター前を通り抜けて、4人は階段を降りた。
でも、あたしが踊り場まで降りたとき、
「そういえば、雅ちゃん罰ゲームまだだったよね?」
先に階段を降りた智哉が、あたしを見上げて笑った。
ーーー覚えてなくていいのに。
「…そうだっけ?」
あたしは誤魔化そうとしたけど、智哉は悪戯に笑って続けた。
「先輩達から聞いた怖い話覚えてる?」
「うん」
「あの体験談ってどこのビルで起きた話だったかも、覚えてる?」
ーーーあ。
固まるあたしを見て、智哉はそこで話すのを辞めた。
そして凛と一緒に笑って、そのまま居酒屋に入って行ってしまった。
ーーーそうだ、ここのビルじゃん。
凛と智哉の笑い声も聞こえなくなり、静かになった階段。
そして、今更階段の薄暗さに気付いた。
ーーーやだ。怖い。
そのとき、あたしの右手に何かが触れた。