甘い蜜
それは暖かくて、大きい。
あたしの手を、優しく包みこんだ。
ゆっくり隣を見ると、翔琉がいた。
「何も、怖くないって」
あたしを向いた翔琉は、安心するような優しい顔をしていた。
ーーーこんな顔、するんだ。
初めて見る、翔琉のこんな表情。
「ほら、行くぞ」
踊り場で突っ立ったあたしを、繋いだ翔琉の手が引っ張る。
怖くなかった。
翔琉と繋いだ手に、全神経が集中してるみたい。
ーーーもう、怖くない。
「ありがと」
あたしは小さく呟いた。
翔琉に聞こえていたのかは、わからなかったけど。
階段を降りて居酒屋に入ると、凛と智哉が待っていた。
でも2人があたし達に気づく前に、繋いだ手は離されていた。
急に淋しくなった、あたしの右手。
翔琉の左手を見ると、やっぱり大きい。
ーーーこの手と、繋いだんだ。
翔琉と手を繋いだ事が、今になって嬉しく感じた。