副社長は溺愛御曹司


「やっぱり、年度内にもう一度、求人を出そう」



うとうとしていたらしい私は、その声ではっと意識が戻った。

裸のままベッドにうつぶせになって、スケジュールを整理している様子のヤマトさんが、手帳を手に、私を見た。



「あれ、ごめん、寝てた?」

「少しです」



ごめんね、と私の頭を抱き寄せてくれる。



「年度内ですか」

「年度末は、結局人が動くからね。そこを狙って、中途を採るのは、ありだろ。予算超過は、財務に認めさせるとして」



枕を顎の下に敷いて、月別のページを眺めながら、それとね、と片腕で私の頭をかきまわした。



「4月になれば、神谷、4年目だろ。その頃って、大事な時期なんだよ。できる限り早く、開発で勉強を始めたほうがいい」



私は、ぱっちりと目が覚めた。

頭を起こして、枕元のスタンドに照らされる横顔を、じっと眺めると、視線に気がついたのか、目が合う。



「さっさと出てけって意味じゃないよ」

「わかってます」



わかってます。

その言葉が、どれだけ私のことを思ってのことか、私には、わかります。

専属秘書が入れ替わるというのは、役員自身にも、かなりのストレスと、物理的なロスを強いる。

いっさいを書きいれた手帳を、新品に替えるようなものだ。


それでもヤマトさんは、私の志望を知るなり、なんとかそれを叶えようとしてくれた。

ボスとして、という立場からのものだったとしても。



それが、愛情でなくて、なんだろう。





「ありがとうございます」

「無事、異動できたらでいいよ、お礼は」


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