副社長は溺愛御曹司
今回みたいなこともあるし、と眉を寄せるヤマトさんに、笑ってうなずく。

黒い手帳の表紙に、予備の名刺が数枚はさまっているのを見て、そうだと思い出した。



「そろそろ、英語表記を、正式なものにしたらいかがですか」

「ああ」

「延大さんも、もうその時期だと」



ヤマトさんは、うーんと考えこむと、ぱたんと手帳を閉じて、枕元に置いた。

ごろんと身体をあおむけて、おいで、というように片手をひらひらさせる。

その腕に頭を乗せようと身を寄せたら、よいしょ、と身体ごとヤマトさんの上に引きあげられた。



「じゃあ、年度が変わる時、新しくしようかな」

「役員名簿などの変更手続きも必要になりますから、早めにお申しつけくださいね」

「エッチっぽいから、そういう堅い言葉使わないで、こういう時に」

「…早めに言ってください」

「うん」



たまに、ヤマトさんの頭の中がわからない。

爽やかなおサルさん、という暁さんの表現が、もしかして一番ぴったりなんじゃないだろうか。

ヤマトさんの上に腹ばいになって、その顔を眺める。

サルというには、男前すぎるかな。



「ちょうど、卒業記念になるね」

「卒業?」

「神谷からの」



意味がわからず、腕をついて顔を見おろすと、にこ、と微笑みが返ってきた。



「俺を、肩書きに恥じないよう、導いてくれたのは、神谷だからね」

「私は何も、してません」

「よく言うよ。あんなガミガミうるさくしといて」

「ガミガミ!」



ひどい!

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