副社長は溺愛御曹司
私、ヤマトさんが我が道を貫くのを、否定したことなんて、一度もなかった。

いつかわかってくれるだろうと、私は私で、自分の仕事をしてただけなのに。



「顔と態度に、出てたよ、このバカって」

「…本当ですか」

「ありがたかった」



私の髪を梳きながら、神谷の髪って、変わった手触りだよね、とまじまじと眺めてくる。

彼の言うとおり、私は、極度の猫っ毛で、量は多いけど、細くてコシがまったくない。

いまだに油断するともつれるくらいで、まるで子供みたいだと我ながら思う。



「そっか、ちっちゃい子の髪か、何かを思い出すと思った」

「気にしてるんですから」



可愛いじゃん、と笑いながら、ぐしゃぐしゃとかきまわすのを、慌ててやめさせた。

手ぐしで髪を直していると、柔らかく微笑んで、それを手伝ってくれる。



「神谷がね、黙々と自分の務めを果たしてるのを見ると、俺も、簡単に自分を曲げらんないなって思ったよ」

「私の思惑とは、逆ですが…」

「でも、俺も立場が変わったばかりで、それなりにテンパってた時期だったから、助けられたんだよ」

「それで、圏外なのに、気になったんですか?」



正直に疑問を投げかけてみると、おかしそうな笑い声と一緒に、裸の腕が、私の身体をぎゅうと抱きしめる。

水泳選手って、あまり体脂肪を落とさないって言うけど、確かに、全然ごつごつしてなくて気持ちいいなあ。



「そんな、ナースに惚れる入院患者みたいな心理とは、違うよ」

「じゃあ、どういう心理だったんですか」



なにその例え、と思いながら、しつこく訊いてみると、笑いの残った声が、んー? と肩のあたりからくぐもって聞こえた。



「わかんないな。気がついたら」

「気がついたら?」

「そこまで言わすの?」



両腕をつかんで、顔をのぞきこまれる。

あきれたようなその顔に、むっとした。

そんなの、そこからが聞きたいに、決まってるじゃないか。

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