副社長は溺愛御曹司
「勤務時間外なので、言っていただかないと」
「じゃあ、続きは仕事中にね」
バカなことを言う頭を思わずぶつと、いて、という声が上がった。
「可愛いと思ったし、そばにいてほしいなと思ったよ」
ふてくされたように見あげてくるのに、それから? と促す。
「…一緒にいると楽しいと思ったし、あの男の子とややこしいことになってるなら、やめさせてやりたいなと思ったよ」
「それで?」
まだ言うの、とうろたえた声が上がり、私は突然、彼の身体の上から、放り投げるように落とされた。
「痛いです!」
「先読みが仕事だろ、全部言わすなんて、秘書失格だ!」
はあ!?
いきなりそんなこと持ち出すなんて、なんだ、と言おうとして、こちらをにらむヤマトさんの顔に目が丸くなった。
たぶん、かすかに、赤い。
私がまじまじと見ているのに気がついたんだろう、うつぶせに姿勢を変えて、立てたひじに、頬と耳を隠すように顔をうずめた。
「…片っ端からペロリは、どうしちゃったんですか」
「誰にでも好きとか言ってるわけじゃないって、言っただろ…」
絞り出すような、弱々しい声がする。
ええー、すごい、照れてるの、もしかして。
基本的にシャイな人だとは思ってたけど、こんなふうに恥ずかしがってるのは、初めて見る。
ねえヤマトさん、と腕の間からのぞきこんで呼びかけると、なに、とむくれた声がした。
「続きは?」
「お前、容赦ないね…」
だって、今を逃したら、二度と訊く機会がなさそうなんだもん。
できたら顔を見たくて、腕をそっとはずしてみると、悔しげにこちらをにらむ顔と、目が合った。
「…何をそんなに、聞きたいの」
「楽しくて、やめさせてやりたくて、その次は?」
「…大事にしたいなと思ったし、望んだ部署に、絶対行かせてあげたいと思ったよ」
その後は? と枕にひじをついてにじり寄ると、同じような体勢のヤマトさんが、嫌そうに眉をしかめて、視線をそらした。
その目線が、しばらく言葉を探すようにあちこちをさまよって、やがてまた、こちらに戻ってくる。
じろりと私を見ると、ふてくされたような声が言った。
「ほしいと思った」